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2024年の営業について

槍ヶ岳山荘グループの山小屋を利用される方は必ずご一読ください。

アンケートの結果を受けて④  〜テント泊について〜

 先日のブログに引き続き、1月に実施したアンケートの補足説明を行います。これは、アンケートの結果を受けて情報の発信が不足していると感じられたことをきちんと説明する為に書いているものです。今回はテント泊について書きたいと思います。あくまで私の個人的な考えですので、お読み頂ける方はその旨ご了承下さい。

アンケートの結果は、こちらから確認できます。

※このアンケートは2023年1月に槍ヶ岳山荘グループが実施し、1,614人もの登山者の方々にご回答頂いたものです。このアンケートには別途自由記述欄があり、こちらも885人の方にご回答頂いております。

前回はこちらの記事でキャンセル料について書いています。
宿泊料金に関する記事はこちらをご確認ください。
宿泊予約制に関する記事はこちらです。



【テント泊について】

 テント泊については、主に料金と予約制の2つについて書かせて頂きます。

 まず料金についてですが、現在私たちの山域ではテント泊はひとり2,000円という料金設定が主流です。数年前までは1,000円でしたので、倍増と言えるでしょう。アンケートでもこの金額設定が高すぎるというご意見は数多く見られました。

 実は、山小屋経営者の中には「テント場はやりたくない」と愚痴をこぼす人もいます。もちろんテント場をやめることはないと思いますが、なぜやりたくないのか。それは、テント場事業は山小屋にとって非常に実入りが少なく、テント場事業単体で見たときに赤字となっているであろう小屋も存在する為です。

 テント場の運営に係る最も大きなコストはし尿処理です。一般的に、宿泊者は山小屋館内のトイレを利用し、テント泊及び通過の方は外のトイレを利用し、テント料金を支払えばトイレチップ不要としている小屋が多いと思います。しかし、それでは外のトイレだけに限定しても掛かる費用が賄いきれていません。トイレの建設には環境配慮型トイレであればその建設費用の半分は国が補助を出してくれます。(実際には消費税分は補助されませんので半分ではありませんが)しかし、街ではなく山の中にトイレを建設するには莫大な費用が掛かり、その資金の回収には長い期間が掛かります。また、トイレの維持費には行政からの補助はなく、全て山小屋の負担です。北アルプス南部ではし尿分離型のカートリッジ方式が多く採用されておりますが、カートリッジに入れた便をヘリで下ろして処理してもらい、またカートリッジをヘリで現地に戻すという方式ですので、処理費用と往復のヘリ代が掛かっています。テント料金とトイレチップからこれらの費用を差し引くと、大抵の場合は利益が出ませんが、し尿処理は山小屋の責務と捉え、各山小屋は対応しているところです。今後、トイレの維持費用にも行政からの補助が出るようであれば、テント場の収益性は大きく改善されるでしょうが、今のところその見込みはありません。

 また、昨今のソロテントの増加は収益性の悪化に拍車を掛けています。充分な敷地面積があるところは影響があまりないかもしれませんが、張れる数に限りがある場所では1日の売上が従来よりも下がってしまいます。料金設定の仕方を工夫し、例えば1張幾ら+ひとり幾らという設定の仕方を導入している山小屋もありますが、私たちのところでは現場の負荷を考慮して今のところ採用しておりません。

 ちなみに、あまり手が掛かっていないように見えるといった意見があったテント場ですが、ほとんどの山小屋では敷地の整地等の対応を行っています。槍ヶ岳山荘でも、そうは見えないかもしれませんが、雪解け後に浮き石の除去や崩落箇所の整地といった対応は行っておりますので、この機会に申し添えさせて頂きます。

 尚、宿泊料金の回にも書きましたが、アンケートで学生だけでも安くして欲しいという意見を多く頂戴しました。若者が山に登らなくては日本の登山文化に未来はありませんので、大学や高校の山岳部・ワンダーフォーゲル部の活動を支援する為、槍ヶ岳山荘グループの山小屋にあるテント場では、大学生以下のテント料金はひとり1,000円としております。

 
 続いてテント場の予約制についてですが、アンケートの自由記述でテント場の予約制をやめて欲しいという意見が数多くありました。槍ヶ岳山荘グループの山小屋では現在予約制にしておりません。テント利用の方だけでも自由な山行ができるようにと考えており、出来れば今後もその方針でいきたいと考えています。

 一方で、オーバーユースは重要な問題です。稜線上の岩場に位置している槍ヶ岳山荘は利用者の数に対してテント場が非常に狭い為、繁忙期では午前中のうちに一杯になってしまうことが多々あります。ですので、槍ヶ岳山荘については予約制にして欲しいという意見もありますが、現在は先着順としていますので、張れなかった方は殺生ヒュッテでテント泊して頂いており、結果として殺生ヒュッテがキャパオーバーとなることがあります。

 当グループの岳沢小屋では、繁忙期にテント利用の方が多くいらっしゃると、テント場の敷地内にテントを張ることができず、止むなくヘリポートや敷地外の河原にテントを張る方がいらっしゃいます。当然ながら、国立公園内の敷地外でのテント利用は禁じられておりますし、普段は枯れ沢でも夜間に雨が降ると河原には水が流れますので大変危険です。

 ある程度利用人数をコントロールする為の措置は今後必要となる可能性があり、場合によっては特定日において予約制とすることも考えていく必要があります。岳沢小屋では昨年、秋に水不足となりました。積雪量が減り水源が枯れてしまった為ですが、ひと昔前では考えられないことです。そうした場合に、小屋の宿泊も含め施設の利用人数の制限を行うことは今後有り得る訳で、その為の予約制の導入といったことはあるかもしれません。

 予約制は管理する側も手間が掛かる為、出来ることならやりたくはありません。ですが、考え方は小屋によって異なるかもしれませんが、当グループとしては以上のような考え方で、今後予約制の導入は有り得ますので、ご了承頂ければと思います。

  

 これまで、4回にわたりこのブログにて山小屋の予約制、宿泊料金、キャセル料、テント泊について書いてきました。コロナ禍を経て、今シーズンからは以前にも増したインバウンドの盛り上がりが見込まれており、登山を取り巻く環境は今後さらなる変化を続けていくことが予想されます。山小屋としては従来から課せられてきた果たすべき役割を今後もきちんと果たした上で、時代に合わせた柔軟な経営が求められます。時に利用者の声を聞きながら、山小屋同士や行政とも力を合わせ、山小屋としてのあるべき姿を今後も模索していこうと思います。

 最後に、この『あるじの視線』というブログは、当グループ代表の穂苅が書いています。ご意見のある方は山小屋現地で是非私にお伝えください。私はシーズン中は主に槍ヶ岳山荘におります。

 今シーズンも槍ヶ岳山荘グループの山小屋を宜しくお願い致します。