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2024年の営業について

槍ヶ岳山荘グループの山小屋を利用される方は必ずご一読ください。

雨ニモマケズ

こんにちはスタッフ片木(旧姓肥沼)です。
いきなりの蛇足で大変恐縮なのですが、前回の休暇で入籍するに至りまして、愛する妻に姓と魂、そして口座を捧げ再び入山しました。とはいえ中身は変わらないので今後ともよろしくお願いします。

久々に見下ろせました。
殺生、あんな位置でしたっけ?

入山よりまもなく3ヶ月。
視界に映る雪すべてを、親の仇のごとくスコップを突き立て、放り捨てていたのも今は昔。
現在は名残惜しむばかりの量となり、これからやってくる新人バイトさん達に
『ついこないだまで、ここにはウンメートルも雪があってだな』
なんて説明しても、いまいち理解を得られないほどとなりました。
最近は人間の声より、雨音を聞く時間の方がはるかに長く、陰鬱とした日々を過ごしております。
もっとも、それは情緒的な雨だれとは程遠い、悪辣な梅雨前線がトタン屋根で奏でる衝突音に他ならず、常に不安と焦燥に駆られる響きであります。

さて暗黒の7月とも呼べる昨今のエンドレスな長雨にコロナも加担し、お客さんも疎らであります。 もはや空の色すら忘れておりました。
しかしこれを奇貨とし、最近はテント場の整備に精をだしております。

一見するとモヘンジョダロのように見える。

サッカーをたかが球蹴りと軽んじるべきではないと同様に、石組みもまた、誰にでも出来る原始的な作業ではなく、恐ろしく奥の深い技工であるコトを開始10分程で感覚的にわかる。
一つとして同じパーツが存在しないコト、すなわち全ての岩が違う表情、重心を持つコトを主たる理由として、口伝による技能継承が困難な世界でして、どれだけ積んできたか、組んできたか、作業の大部分に経験がモノをいってきます。

やればやるほどピラミッド建設やマチュピチュの石工がいかに超絶技巧であるか理解でき、中でも近世より石垣を組んできた滋賀の穴太衆に至っては 、石選びの段で既に頭の中ではすべて組みあがっているだとか、石の声が聞こえる等、第6感の存在さえ示唆しているが、無論それらは片手間でやる人間には到達不可能な異次元である 。
よって通常業務をやり尽くした熟練小屋番が最後に行き着く境地ともいえ、多くの先達がのめり込み没頭する様を見てきました。

あいにくうちのテン場は既に先人達による岩の取り尽くしが起こっており、我々は線路の枕木やら旧館の改装時に役目を終えた梁、または米栂の注入剤を駆使して、騙し騙しやっております。
土圧に抗い、土砂の流出を防ぎながら岩稜斜地に力業で平面空間を生み出しているのですが、なんだか荒っぽい棚田を作っているような気分になりますね。

この辺りは石質に恵まれず、脆い“槍ヶ岳結晶片岩”が大半を占めております。
加工はしやすいが、ここぞという時の強度はあまり期待できない。
穂高から産み落とされた柱状節理がそこら中に落ちている岳沢が懐かしい。

実は以前、ちょっと昔の山岳雑誌PEAKSを流し読んでる際、うちのテン場が“泊まりたいテン場NO.1〟なんて特集されていたのを目にし、何気なく飲んでいたコーヒーを吹きそうになりました。
テン場のメッカといえば涸沢という認識だったので、まさかうちの吹きっ晒しがそんなにもヒトサマの関心を集めていたのに驚くとともに、果たして2000円払う価値を付随できているのだろうかと思うに至り、踏み切った次第です。
現在40張のサイトですが、もう少し増設できそうです。
猫の額みたいなテン場ですが、穂先に劣らぬ名所となるよう、今後も時間を見つけ手を入れていきたいと思っております。