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登山

山岳遭難が多い多いといわれる本年度、実質全国の夏山遭難は過去最多で808件、917人。そのうち死者・行方不明者が54人と、遭難した人の6%が死や行方不明につながっていることに驚かされます。

昨日から今朝まで低体温症の救助案件が中岳であり、私はピヴァーク班としていきました。要救助者は本当に悪い状態であったと思いますが、第一発見者と日中対応にあたった槍ヶ岳・南岳スタッフの多大な尽力のもと朝から硬直していた体や混沌としていた意識が夜中に戻り、朝県警ヘリによって無事運ばれていきました。

ULテント泊のトレイルランナーでした。

殺生でも今年9月に入り風が強い夜なんかはULのテントがもたなくて夜中2時とかに土間に普通に逃げ込んで朝までいるトレイルランナー系を何回も見てます。

装備が悪いのか…まあその装備であればゴアのシュラフカバーに、足をザックに突っ込んでツェルト被って岩陰のほうがいいのではないかと思ったりしますが、まずそのスタイルを3000mでやり抜く覚悟が足らないような感じがします。

テントがもたないのであれば、ピヴァークできる力があるのか、それとも荷物をたたんで敗退と決めて下山するのか、一般的登山ルール上では正論であるとは思えませんが、その装備で来ておいて悪天夜中の槍沢ルートが下れなくて小屋へ逃げ込んでくるというのであれば、あまりにもやっていることと力量がアンバランスであるように感じます。もしこの時期にトレラン・スカイランで力を試したくて来るのであれば、小屋泊にするか、天気をしっかりと把握した上で、2日や3日は寝ない覚悟で、要所で1~2時間程度のピヴァークスタイルで走り通すのがベストかと思います。これまた正論とは程遠いですが。

なんしか生半可なスキルと覚悟では厳しい時期であることを知っておく必要があります。軽くて楽をするのであれば、結局それをやり通すだけの通常登山以上の難しさ、体力とスキル、そして覚悟が必要です。

そして言わずもがな、風速20m/s・気温0℃近くで自分がどれだけ動けるのかを知っていて、更にその状況下で正確な判断力を保てる力が必要です。槍沢や飛騨沢のようにただ走っての登りと稜線上でのスクランブリングでも当然行動可能時間と行動距離に差が生じてきます。とにかく風が強く低温になると判断力が鈍ります。山小屋などの各ポイントで今後の行動をどうとるのか判断できる力が必要で、その判断をするタイミングを作れる判断力が必要です。今回の要救助もそこが原因であり、絶悪な環境が招く判断力の低下、もとい判断を下す能力がなくなったことが要因にあると個人的には思います。

殺生にいても登山に対する認識の差異や、登山レベルの低下というのは急速に進んできている印象を受けます。小屋で「槍ヶ岳まで何分ですか?」「上高地まで何時間ですか?」と聞かれることが非常に多く、5年も前なら、「地図をお持ちですか?地図にコースタイムが書いてあるでしょ。」と対応していたのに、今は本当に多くの人に聞かれるので「往復2時間半です」や「7~8時間です。」とほぼやっつけの対応となっています。こうしたことが遭難者を増やしてる要因ではないかと思ったりしてしまいます。

スタイルを問わず、誰しもが遭難する可能性があり、時にそれが死に直結しているのが登山であり、そういったことが自分に起こりえるという覚悟が必要です。そう考えると自分のことは自分で調べたり、やったりしなければなりません。装備やシステムは新しいものが次々と出てきますが、結局山という環境に対応するのは人の体力・技量であり、逆に環境はここ数年で酷暑や集中豪雨などどんどん悪くなっているのが現状です。これ以上山での総合力を落とさないために何ができるかを、小屋でも模索していければと思います。

中岳で迎えた今朝の日の出は、3000mの稜線とはこんなにすごいところなのかということを美しい風景と一晩要救助者とすごしたことが合わさって強く感じるものでした。