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事故検証と単独登山者へのお願い

先日、南岳の近くで滑落死亡事故がありました
現場は横尾尾根の上部
確かに急な岩場の続くところですが、事故はけっして多いところではありません

小屋の近くからヘリでの収容の様子を見ながら、どこから滑落したのか気になったのと、自分で受付をして記憶にある方だったので、弔いと合わせて原因検証に行ってきました

収容ポイントからして、この場所から滑落したようでした
ハシゴで手足を滑らせて落ちたのか?
その可能性はゼロではないが決して高くない、だいたいこういうところは皆さん気を付けて下りるもの

実はこの場所、ハシゴを下りると左へ折れるべきなのですが、狭い踊場へ下り立つと、この矢印が見えず、大雨の時に水が流れた跡に踏み入ってしまう可能性があるのです
というのも、7月初旬に新人スタッフと一緒に下りた時、新人は間違ってそっちへ下りそうになりました。それを後ろから見て、「ああ、そういう間違いをする可能性もある場所なのかと思い、間違い防止の措置を講じる必要を感じていました
そして、まさに遭難者が滑落した日に、岩に「×」印のペンキを付けに行ったのですが、それは事故発生推定時刻の3時間後だったのです

そのまま流水の跡を下りるとハイマツ帯となり、足元が見えづらく、その先は崖になってるので、そこで滑落したのか…?
あくまでも推測に過ぎませんが、ハシゴで手足を滑らせるより、その可能性の方が高く感じます
もし、前日に「×」印を付けに行ってたら、起きなかった事故かと思うと悔やまれてなりません
あきらかにルートとは違う足元の悪い、滑りやすい流水の跡なので、おかしいと気付けば防げた事故かもしれません

2年前にも前任地の岳沢小屋で、近くの天狗沢上部矢印を付けた岩が雪の影響かなにかで数mズレ落ち、その間違った矢印方向に下りて行った登山者が、その先で亡くなる事故がありました
今回のように矢印を見落とす、不可抗力で印の方向が違う方へ向き、違う方向へ進んでしまう可能性は登山においては多々あるかと思います
「なんかおかしい…」と気付いてもらえるはずなのですが、人間の心理としてはそのまま行ってしまうこともあるのでしょう

ともかく、この「×」印付けを一日早くやっていれば、こんな事故は起きなかった可能性もあったかとおもうと悔やまれてなりません
こういうことのないよう、自分の小屋の担当するエリアはなるべく頻繁に歩いてパトロールして、異常を早めに察知したいと思います

そして登山者の方、特に単独登山者へのお願いです
当然、登山届は出されているでしょうが、槍穂高などの数日に及ぶ登山行動の追跡は山小屋などへの履歴調査が一番効果的です

宿泊カードやキャンプ届にこんなふうに行先を「上高地」、「奥穂高」などと書く人が非常に多いのですが、これだと単独で行方不明になった時の捜索範囲が絞れません
南岳から上高地?
槍へ行く?横尾尾根を下りる?キレット越える?涸沢へ下りる?ザイテンを下る?重太郎から岳沢?西穂まで縦走して上高地下山??
捜索の範囲は果てしなく広くなります

これは今回の遭難者の書いた実際の宿泊カードです
行先を「上高地」としか書いていないので、私が経由ルートを伺って、「天狗」と書きました
この聴取と記録のおかげで今回は早い発見に至りましたが、これが「上高地」だけでは発見が遅れていたことでしょう(可能性としては大キレットなどを探し、横尾尾根などの捜索は後回しになると思います)
2名以上のグループであれば、行方不明という可能性は低くなりますが、単独の人は本当に気になります
どうか、こうした宿泊カード・キャンプ届などはしっかり経由ルートも記入をお願いします
家族のため、そして、自分自身を早く見つけてもらうためにも

今回の遭難者のご冥福を祈るとともに、皆さまどうぞ気を付けて、登山を楽しんでください

※現在、岳沢の天狗沢上部は2020年の地震の影響等で通行不可となっています
(小屋の近くのお花畑までは安全に行けるよう整備されています)